北方領土交渉秘録
東郷和彦 著
鈴木宗男議員の収賄疑惑の煽りを受け、外務官僚として矢面に立たされた佐藤優氏と
もう一人が著者の東郷和彦氏です。当時、検察の捜査を受けてマスコミの餌食にされた
ことを本人の体験から語られることから始まります。
一度「悪」と決めつけられると、その人だけではなく家族にまで張り付かれ、「正義のペン」
を振るわれます。３４年間国益のために外務官僚として働いてきたのに、外務省に生贄
にされたという無念な気持ちが表われていました。
本書のテーマである「北方領土」。日本側の主張は、１９４５年終戦間際、日ソ中立条約
を一方的に破棄し降伏受託後の軍事行動なので４島を返せ。ソ連側の主張は、米英ソの
ヤルタ会談で決めた参戦であり、戦争による成果なので返さない。大まかにはこうです。
ちなみにソ連・スターリンが、アメリカにつきつけた要求は北海道北半分。一つ間違えば、
北方領土だけではなく、北海道の北半分がソ連領となっていたのです。
著者は、北方領土の日ロ交渉の担当者として在任中だけでも「機会の窓」は五度あり、
解決時期があったといいます。
１、１９８５年 ゴルバチョフ書記長就任時
２、１９９１年 ゴルバチョフ大統領訪日前
３、１９９２年 エリツィン大統領訪日前
４、１９９７ー９８年 橋下龍太郎首相・エリツィン大統領（川奈提案他）
５、２０００ー０１年 森喜朗首相・プーチン大統領
私が思うには、絶好の機会は２度。１度目は終戦直後、共同宣言に終わった幻の平和条約。
歯舞、色丹２島返還で日ソ平和条約締結間近に、アメリカが４島返還でなければ”許可”せ
ず頓挫。１９５６年は冷戦が始まっており、防波堤として日本の重要性が高まり、同盟国とし
てアメリカに必要でした。
２度目は冷戦終結直後、ソビエト連邦解体時のロシア極貧時代。スーパーに物はなく、国民
が飢えていた時に、条約の文言などのメンツを捨て経済援助で解決。叶いませんでした。今
では地下資源を背景にスーパーリッチも増え、経済援助と言うカードが小さくなっています。
ロシアはプーチン大統領が返り咲き、日本は安倍政権。安倍首相は、当時秘書として親の
安倍晋太郎さんの時代から関わり合いがあり期待されます。先日引退し、プーチン大統領と
個人的関係が深い森元首相が昨日、総理の親書を携え訪露。プーチン大統領の謳う面積
割りが、「引き分け」の解決法の近道でしょうか。
（森氏の父・森茂喜氏は、日ソ交流を深め、死後分骨されシェレホフ市にお墓が作られる。）
外交で圧倒的な勝利が得られるのは、戦争後の条約時だけです。私は、４島だけでなく
日露戦争で勝ち取った南樺太も返還をと思いますが、それでは交渉は進みません。
サンフランシスコ講和条約では、南樺太及び北方領土は放棄させられますが、その帰属に
関しての記述はありません。
北方領土問題解決後の日本の狙いは、ロシアの市場と地下資源。ロシアの狙いもまた、
日本からの投資・技術と資源の販売。そして、互いの安全保障。実は、目的が共通して
いるのです。
しかし、解決法は日本は４島返還後の平和条約締結に対し、ロシアは平和条約締結後
譲歩して２島返還。どちらかが妥協しなければなりません。
現実的には、施政権はロシアが行使しているので、日本側の原理原則論を突きつける
だけでは、何も変わらないということを著者は述べています。
【北方領土交渉秘録 東郷和彦 著】
北方領土解決には、一括四島返還と２島＋２島に分けて返還を主張する人がいます。
一括派は、歯舞・色丹で手打ちにされ国後・択捉が永遠に返ってこないといい、分割派は、
それでは話が何も進まないといいます。
交渉は相手があってのことなので何が正解かは分かりません。分かるのは歴史となった
後だけです。ただし、北方領土の交渉は進展しにくいことは確かです。日本とロシア双方
のメンツと原則論、国内情勢、日ロを囲む国際政治情勢。
日本国内では、政局、永田町対霞が関、外務省内の対立などがロシア交渉に影響し、思
うように進まないジレンマを著者は抱えていたようです。本書の１部分抜粋します。
「四島一括」の実現を日本がどれだけ切望しているか、私自身も骨身にしみて理解して
いるつもりである。しかし、その願望に身をゆだねる余り、ロシアを相手に現実に起こし
うる変化の可能性を把握できなくなってもよいのか。自分の信ずる意見の正しさに縛ら
れ、相手の出方を見誤ることにより、最終的な北方領土問題の解決を見失ったら、誰に
対して責任をとるのか。
５００ページちょっとの分厚い本でしたが、刻々と変わる交渉の経緯を論点を絞って綴って
あり、国対国の外交の場にいるような気持ちにさせる小説のようなノンフィクションでした。
我々国民がもっと北方領土に対し興味を持ち、正確な情報を持つことが大切ですね。
本書の最後に佐藤優氏が解説している部分の抜粋です。
これらの交渉は、冷戦の大きな「ゲームのルール」の中で展開されたので、突き放して、
第三者的に見るならば、最初から勝算のないゲームだった。当事者の政治家や外務官僚
が、交渉を成功させようと努力したことは間違いない。しかし、下手に北方領土問題が解決
してしまい、日本国民の反ソ・反共機運にヒビが入ることの方が日本の国益にとって余程
危険であると考えたのが、外務省主流派であった。
北方領土問題を残し、解決しないことによる国益。そのことで、西側資本主義陣営における
日本のポジションを維持するという考えです。しかし、時代は刻々と変わり、冷戦下におけ
るソ連の脅威から中国の膨張が最大の脅威となっています。
ロシアとの北方領土問題と韓国との竹島問題、中国との尖閣諸島、それぞれ歴史的な経緯、
根本的なものが違います。逆に領土問題に共通していることは、「戦後」と「アメリカの関与」
です。アメリカは、わざと問題を残していきます。アメリカのプレゼンスを高めるためです。
昨日、安倍総理はアメリカへオバマ大統領との会談のため出発しました。森元首相の訪露
と自身の訪米が同日なのは偶然でしょうか。ロシアとの領土問題および平和条約を進める
ために、アメリカにお伺いをたてるためかもしれません。アメリカ様がＯＫをだせば一気に話
が進むかもしれません。
なぜ今ならアメリカはＯＫするかといえば、仮想敵国がロシアから中国になったためです。
安倍総理の唱える日本、アメリカ、オーストラリア、インドでの中国包囲網構想である「セキュ
リティー・ダイヤモンド」にロシアを加え、「新セキュリティー・ダイヤモンド」構想を日米露で確
立できるでしょうか。ロシアにとっても中国は、脅威であり微妙な存在です。
北方領土問題を解決できるのは、強いリーダーだけです。安倍総理は現在、経済政策がうま
くいっているために支持率が高く、解決への意欲もあります。対しプーチン大統領は、支持率
は低いですがウクライナや中国との領土問題を面積割りで解決した実績もあり、日本を利用
し経済の活性化を狙っています。
日本がロシアに対し信頼がおけないもう一つの問題が、シベリア抑留です。１９９０年に
ソ連の東洋学研究所が発表したシベリア抑留者は、639,635人。内約64,000人が死亡
した資料があると公表しました。エリチィン当時大統領が、訪日時謝罪。
本日の金相場は、ＮＹ商品取引所で前日比0.6ドル高の１トロイオンス1578.6ドル。
プラチナ相場は、前日比27.1ドル安の１トロイオンス1,618.9 ドル。
東京外国為替市場では現在、１ドル￥92.9、１ユーロ￥122.7。
２０１３．２．２２ 貴金属買取相場
１８金・Ｋ１８ ３，６３０円/1g プラチナ８５０ ４，２３０円/1g
インゴット100ｇ以上 ４，８５０円/1g プラチナ９００ ４，４００円/1g
２４金・純金製品 ４，６８０円/1g プラチナ1000 ４，８２０円/1g
１４金・Ｋ１４ ２，６５０円/1g K18/Pt850半々 ３，８５０円/1g
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